

熱心な愛犬家たちが互いに声を掛け合い、協力者を求め、そうしてようやく開催するに至った、そんな名も知れぬ大会だった。 けれども、その一度きりしか開かれなかった大会は、いつからかこう呼ばれるようになる。
それは後に起こる出来事の、そのキッカケとなる場所で行なわれた唯一 『Starting Point(始まりの場所)』と呼ばれるべき大会だったためである。
その大会で、一人のヒーローが誕生した。 自分よりも大きな犬を連れて登場した少年。

その大会で、一人のヒーローが誕生した。 自分よりも大きな犬を連れて登場した少年。

物珍しさに誘われて見物にやって来ていた人々は、そんな彼に向かって暖かい声援を送る。
しかし、それは決してこれから競技に挑む彼への期待心からではなかった。 大人たちに混じって参加してきた小さな選手への賞賛のみが現れてると言って良かった。
犬が吠える。 少年のほうをじっと見つめて、合図があればすぐにでも走り出してしまいそうな様子だった。 そんな相棒を見つめ返す少年は、小さな声で「いくよ」と呟く。 相変わらず続いている声援の中、間も無く、競技開始が告げられた――――。
――――それから幾年かが過ぎ去り、その小さなヒーローの存在が人々の記憶の中から薄らぎ始めていた、 その日、その街で、一人の女性が華やかな舞台の上で、こう宣言する。

ドッグスポーツ世界大会開催決定の挨拶より
『始まりの場所』で行なわれた沢村千代乃による宣言は、 立ち会った者、そうでなかった者全てに区別なく、 次代のヒーローとなれる可能性を確かに根付かせ、そして今も少しずつ育み続けている……。
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